2019年1月1日火曜日

このところ更新をサボっておりましたが、久しぶりに、2018年のベスト本とか。

順不同。

久保寺健彦さん『青少年のための小説入門』(集英社)
http://renzaburo.jp/kubodera/


作中、朗読シーンがたくさん出てくるのだけど、サイコーだ。誰かに聞かれると恥ずかしいので、カラオケボックスにこもって朗読するかな。ディスクレシア(読字障害)の小説家というアイディアだけじゃない、小説とは何かを深く考えるきっかけになった。


呉明益さん、天野健太郎さん(訳)『自転車泥棒』(文藝春秋)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163909257


自転車大国台湾の、自転車産業草創期から、現在に至る大河小説って書くとビジネス小説っぽいけど、エモい。自転車マニアはみんな読むべき。

台湾の小説って初めて読んだ気がするのだけど、天野健太郎さんの翻訳がすげーよくて、気持ちよく読めた。この本を読み終えた直後、興奮冷めやらぬうちに、2018年の11月に訃報を目にした。天野作品をこれから遡って読もうと思っていたところだったのに。

台湾の絵本作家、ジミー・リャオさんの絵本を天野さんが訳した『星空』がとても美しかった。
https://www.twovirgins.jp/single-post/2017/03/18/星空-The-Starry-Starry-Night


円城塔さん『文字渦』(新潮社)


円城さんのマニアっぷりがすがすがしい一冊。
異字体やルビのオンパレードで、新潮社の校閲者の面目躍如なのか、どこかで何かを突き抜けてしまったのか、まったくわからない怪作。

開発者インタビューがあった。円城さん、確かにほとんど開発者。
https://type.center/articles/11944


真藤順丈さん『宝島』(講談社)
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000310700


分厚い、本の厚さじゃなくて、登場人物の描写が分厚く濃厚。この物語に『宝島』というタイトルを与えた著者の対象への愛が、物語に厚みを加えている。
直木賞取らないかな、もっとたくさんの人に読んでほしい。


温又柔さん『空港時光』(河出書房新社)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309026954/


台湾出身の日本語作家、温又柔さんの作品は、いつも、自分のアイデンティティーを揺さぶられるテーマでありながら、かわいく、魅力的。言葉や国境や、何かの狭間にあって、人間の見せる魅力が描かれていてサイコー。

青山ブックセンターで社会学者の岸政彦さんとの対談があったのだが、リアルで聞きたかった。ブクログさんでまとめられてた。
https://hon.booklog.jp/report/kishi-wen-20180712

岸政彦さんの『断片的なものの社会学』も名著。
https://www.asahipress.com/bookdetail_digital/9784255008516/


丸山正樹さん『龍の耳を君に デフ・ヴォイス新章』(東京創元社)
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488027810


『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』の続編。場面緘黙症で音声言語が話せない登場人物が、手話を通じて世界とつながる場面は、『青少年のための小説入門』のディスクレシアの小説家を思わせる。手話という言語についての深い思いが物語を豊かにしている


大前粟生さん『回転草』(書肆侃侃房)
http://www.kankanbou.com/books/novel/0321kaitenngusa


初めて雑誌「たべるのがおそい」に掲載された表題作を読んだときの衝撃ったら。西部劇に登場する風で転がる草、擬人化された回転草(タンブル・ウィード)が主人公の小説。怖いもの見たさかもしれないけれど、この人の小説をもっと読みたい。


先崎学さん『うつ病九段』(文藝春秋)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163908939


当事者によるうつ病の闘病記としても秀逸だが、闘病を通じて、才能とは何か、能力とは何かを考えるきっかけとなる好著。与那覇潤さんの『知性は死なない 平成の鬱を超えて』にも共通する、知に対する深い洞察がある。


宮下奈都さん『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。』(扶桑社)
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594079833


みんな大好き宮下さんの、雑誌「ESSE」で連載していたという食にまつわるエッセイ。
ひとつひとつのエピソードがとても素敵。栗ご飯の話が、掌編小説のようで、心が揺さぶられる。


彩瀬まるさん『珠玉』(双葉社)


そして、大晦日に買ってきた1冊、真珠の擬人化という大技、化粧品メーカーの販促冊子での短編でにんじんの擬人化までやった彩瀬さんだから、真珠なら問題ない。正月休みに読むのが楽しみ。

新しい年もいい本に巡り会えますように。


追伸

花田菜々子さん『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309026725/


九螺ささら『神様の住所』(朝日出版社)
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255010519/

まだまだいろいろありそうだけど、この辺で。