2011年9月19日月曜日

ツール・ド・本屋さん7(完)・・・・渋谷への長い道『隣のアボリジニ』


ツール・ド・本屋さん7店目は、立川の予定だったが、多摩センター(→前回「ツール・ド・本屋さん6」参照)で雨が激しくなって、晩ご飯を食べ、それでも止まず、少し小降りになって来たのが8時、あきらめて元々10店舗目に想定していた渋谷に向かう。

渋谷までは約30km、甲州街道まっしぐらなので、普段なら速度もそこそこ出る。小雨が降っていて、路面がウェットなので、慎重に走ってもまあまあ1時間半。

ところが、時々やってくる豪雨。メガネは水滴で見えないし、路面の深い水たまり、後輪からと行き過ぎる車とが盛大に跳ねを上げる。本はパッキングしたものの、ウィンドブレーカーを浸みる雨が、体温を奪い、さすがにこれは無理、と、歩道橋の下/高速道路の下/閉店したガソリンスタンドの屋根などに避難。ゲリラ豪雨をやり過ごす。
尺取り虫のように、10分走っては休み、ライトに水が入って点滅しなくなっては軒先で修理(といってもばらして水を拭き取って戻すだけ)、国道20号を東へ、東へ。

寒く、べしゃべしゃで、かなり気分的につらい。

渋谷駅前にたどり着いたのは12時を回っていた(既に午前様・・・・)。



【7店舗目:TSUTAYA渋谷店】

DVDやCDのレンタル・販売で有名なTSUTAYAさんだが、実は、書店としても、店舗数や規模でトップクラス。渋谷のTSUTAYAは、ハチ公口の斜め前、センター街の入り口にそびえる巨大なメディア店舗の6~7階。時々やっているフェアや展示も素敵(先日の手塚治虫『火の鳥』原画展、震えました)。


到着は深夜だったので、ツイッター中の人とは会えず、ちょっと残念。


まずは店内を一周。フロアはさほど広くないが、随所に仕掛けが見られるお店。複製原画の展示、フェア棚、関連陳列などがなかなかのツボ。

中でも目を引いたのが、『獣の奏者』、『守り人』シリーズで有名な上橋菜穂子さんのコーナー。ファンタジー小説に並んで、人類学者でもある上橋菜穂子さんの学者としての代表作。


【選んだ本】
上橋菜穂子『隣のアボリジニ』(ちくま文庫)、この本がファンタジー小説に並んで売っているのを見て、嬉しくなって購入。

[上橋菜穂子『隣のアボリジニ』、誇りと妥協、興味と偏見が同居する現実]
冷静で中立的な視線を普通の街に暮らす先住民に注ぐ、
民族間の軋轢を描く、ベストセラーファンタジー作家の原点。

雨はまだまだ強い。
店内併設のスターバックスで、コーヒーとスコーン。温かい飲み物が嬉しい。

ようやく人間の気持ちに戻って、多摩センターで買った『地上はポケットの中の庭』を読む。


少しあたたかい気持ちになって、店を出ると、雨が止んでいる。ラッキー…と、ガード下に停めた自転車まで数十メートル。鍵を外し、荷物を固定、ライトの点灯を確かめ、さあ出発。
家まではもう少し。

・・・・と、一瞬にして再びゲリラ豪雨。
ガード下に閉じ込められて再び1時間。


ってなハプニングはありましたが、何とか2時過ぎに帰宅。
(多摩センターから、6時間かかって帰宅ということですね。)

ま、無事の帰宅が何より。
ああ、寒かった(と、残暑の中ブログを書く)。


【まとめ】
今回、7店舗のそれぞれ個性的な本屋さんで、個性的な本を一冊ずつ購入。
いずれも、書店員さんの気持ちのこもったお店で、迷う時間も選ぶ時間も素敵な時間でした。

ああ、いい旅だった。
今回行けなかった、立川、吉祥寺、阿佐ヶ谷の本屋さんはあらためてチャレンジするとして、今度は天気がいい日に、もう少し余裕を持って回りたいですね。

2011年9月11日日曜日

ツール・ド・本屋さん6・・・・雨は多摩丘陵を潤して『地上はポケットの中の庭』


ツール・ド・本屋さん6店目は、多摩センター。

海老名のお店がなかなか素敵で、しかもフリペコーナーで読み始まってしまったりしたので、もう夕方(→前回「ツール・ド・本屋さん5」参照)。
海老名~多摩センター間は、結構遠く、直線的に抜ける道がない。国道16号を北上して、多摩丘陵を迂回するように行く作戦。国道に出た頃は既に暗くなっていた。16号線は、都心部を大きく迂回する幹線道路。自転車のためというよりも、トラックのための基幹国道である。比較的道はよいが、路肩は決して状態がよくない。前照灯2灯を点灯して、尾灯は点滅。ひたすら北上。

と、雨が降ってきた。天気予報では、夜からは関東南部もところにより雨。ここで来たか。
多摩センターのお店には、ツイッターつながりの友人がおり、「夕方まではいるよ」とのことだったが、雨の中を急ぐと危険なので、「間に合わない、またの機会に」連絡。ウィンド・ブレーカーを着込んで慎重に走り、7時頃に多摩センターに着。


【6店舗目:啓文堂書店 多摩センター店】
啓文堂書店は、京王線の駅ナカ店の多い、いわゆる鉄道会社系書店。JRのBookExpressや東武鉄道の東武ブックス(草加に住んでた頃、だいぶお世話になりました)などの駅ナカ書店好きな私にとっても、なかなかやるなあというお店が多い(特に渋谷店にはよく行く)。

多摩センター店は初訪問。「小さなお店だよ」と聞いていたが、なかなかの品揃え。ここも、『クロネコ通信』というフリペを発行していて、オススメやフェア棚が楽しい。

ここで、1店舗目のブックポート203 鶴見店で店長オススメ棚から薦められた『ボーナス・トラック』(→「ツール・ド・本屋さん1」参照)の著者、越谷オサムさんの特設棚を発見。越谷さん得意の音楽モノが並ぶ。津軽三味線の『いとみち』が気になったが、なにより、「いいね!」と思ったのが、越谷さんの色紙。

「多摩センターオサムに改名してもいい  越谷在住 越谷オサム」

これだけ打ち出して売ってくれるお店って、作家さんや出版社さんからすると、嬉しいだろうな。


と、越谷オサムさんに気を取られつつ、実はこのお店だけは、買う本が決まっていた。
ツイッターで前から気になっていた本をオススメされ、「多摩センターで買いますね」と約束の本。



【選んだ本】
田中相『地上はポケットの中の庭』(講談社 ITANコミックス)
新人マンガ家さんのデビュー作とのことだが、豊かなイマジネーションと、自分の世界を持っていて、気持ちいい。やさしい、不思議な読後感。

[田中相『地上はポケットの中の庭』、表題作の他、巻末マンガも◎]
あ、あと、登場人物では、城間クンけっこういい感じ。

雨がひどくなってきたので、自転車をガード下に退避させ、晩飯。
それでも止まないので、さらにケーキと珈琲。
もちろん、読み終わってしまう。


少し小降りになってきた。買った本をきちんとビニール袋に包み、鞄に収める。さあ出発。

この後、立川、吉祥寺、阿佐ヶ谷、渋谷と回る予定だったが、ショートカットして渋谷を目指すことにした。渋谷まで30kmくらいかな。あと1店舗、だが、「百里の道は九十九里をもって半ばとす」という格言を思い知るのは、これからだった。

ツール・ド・本屋さん5・・・・怪力乱神を語る『一鬼夜行』


ツール・ド・本屋さん5店目は、海老名。

藤沢の本屋さんが中堅チェーン店でかなりフリーダムにがんばっていたので(→前回「ツール・ド・本屋さん4」参照)、ツイッターでのフリーダムさに定評のある本屋さんに期待が盛り上がる。一度うかがったことはあるのだが、今回は事前予告付き、しかも途中中継あり( #ツールド本屋さん で動向が把握されている)なので、光栄にも店長さんにお目にかかれることに(ツイッターでは何度も語りあっているから、勝手に旧知の仲のような気がしているけど初対面)。



【5店舗目:三省堂書店 海老名店】
ここは、数ある三省堂チェーンの中でも、有楽町店と並んで積極的なツイートが目立つお店。アカウント( @ebina_sanseido )、是非一度ご覧ください。
この記事を書いている瞬間(土曜日深夜)も、『寄生獣』というコミックスについて熱く語るツイッター座談会の座長をされている。

駅前のビル、ビナウォーク1のワンフロア、決して大きな店ではないが、POPや選書、陳列によるオススメが明解ではっきりお店の意志が伝わる。品揃えのバランスもいい。大量陳列や強力POPから選ぼうかと思ったが、見つけてしまった一冊。タイトルだけでも魅力的。

店長さん、ツイッターで想像していた通りのフットワークの軽い方。
ツイッター書店員間のハブとして機能していて、全国から書店発行のフリーペーパーを集め、店内に展示/配布、さらに、それぞれのお店へのデータ配布もしているらしい。
(作ったフリペデータの再配布とかも)


【選んだ本】
小松エメル『一鬼夜行』(ポプラ文庫)
「百」でなくて「一」なところに、えっ。さらに著者名小松エメルさん、どうやら新人らしいけど、妖怪研究で有名な小松和彦さんとはご親戚だろうか?


[小松エメル『一鬼夜行』、他の「百鬼夜行」関連本に加わった新顔]
(この中には名著、小松和彦『百鬼夜行絵巻の謎』や、小林恭二『本朝聊斎志異』も)

もちろん、節電とはいえ夜も明るい都会に住み、合理性に基づく職業で糊口をしのいでいる私、妖怪変化は信じていない。でも、妖怪モノはけっこう好きで、一番好きなマンガは、藤田和日郎『うしおととら』だし、今市子『百鬼夜行抄』も次を楽しみにしている。小説でも『陰陽師』シリーズは毎回買っているし、『八犬伝』も上田秋成も『山月記』も大好き。
一方で、妖怪研究(社会学的にもしくは歴史学的に妖怪を理解することで、歴史上のメンタル面に迫る試みも好み。最近では、菊地章太『妖怪学入門』(講談社)とか、面白かった。

・・・・と、話は尽きないが、この『一鬼夜行』、面白かった。明治初期、魑魅魍魎(ち、み、もう、りょう…具体的にどんなのかわからず)が跋扈(ばっこ…これも、このセットでしか使ったことがない)する江戸を引きずった男と、百鬼夜行から落ちこぼれ、時が止まっているような、不思議と明るい小鬼の小春、脇の人物、妖怪ともに人物/妖怪造形がうまい。

シリーズで次回作もあるらしい。
次も読まないと。


次は多摩センター(→次回「ツール・ド・本屋さん6」参照)。先は長い。
夕刻が迫る。店長さんに早々に退散のご挨拶をして、再び自転車に。
雲が出てきた。夜には雨もあるらしい。




2011年9月5日月曜日

ツール・ド・本屋さん4・・・・本好きにもいろいろ『ビブリア古書堂の事件手帖』


ツール・ド・本屋さん4店目は、藤沢。

鎌倉の本屋さんがあまりにも硬派(→前回「ツール・ド・本屋さん3」参照)だったので、ついつい長居、さらに鳩サブレで有名な豊島屋さんでランチ。湘南の浜辺を走る国道134号を急ぎ、江ノ島の手前で北上、藤沢を目指す。

目的の本屋さんは藤沢駅前、ところがなかなか発見できない。で、駅前のビルの中をうろうろしたら見つけた。

【4店舗目:有隣堂 藤沢店】
駅前の古いビルの2階~4階に入っているが、入り口がわかりにくく、なかなか難しい。ちょっと立地的には不利かも。が、店内は平日午後にもかかわらず賑わっていた。やはり神奈川地区では強い有隣堂さん。地元に根付いた本屋さんなんだろうな。

ここは、ツイッターで拾った面白ネタ、出版社擬人化コーナーという目的もあって、興味津々。
出版社さんをそれぞれ特徴を捉えつつ萌えキャラ系のイラストにして、キャラのプロフィールも入っている。ちとイケメンで軽い角川グループ君とか、SF好きでメガネがかわいい早川書房さんとか、小学生キャラだけどみんなに人気の小学館くんとか・・・・。
イラストもかわいいが、出版社さんのとらえ方も面白い。ぜひ、お近くにお寄りの際は2階の特設コーナーをご覧ください。もちろん、それぞれの出版社から、オススメ本を展示販売している。

絵本の読み聞かせ+工作のイベントなど工夫して集客していて、好感の持てるお店。立地の不利は、行きつけのお店になれば解消できる。


【購入した本】
有隣堂藤沢店さんで買ったのは、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~』(メディアワークス文庫)。大船、北鎌倉が舞台、しかも本にまつわるミステリー、湘南地区にいるウチに買わねばと思っていたのだが、鎌倉のたらば書房さんはあまりにも硬派で、買えず(というか売っていたかどうかわからない)、有隣堂さんでゲット。

[三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』]
表紙の女性が古書店探偵の栞子さん。本好きで、美人。

いわゆるアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)の一種で、持ち込まれる本を頼りに事件を解決していく。自分は必要がない限りあまり古書店には行かないのだが(ハウスダストが苦手なので、どうも鼻がむずむずする)、いわゆる稀覯本好き(ビブリオマニア)という人もいて、初版で、美品で、しかもアンカット(昔は仮製本で小口断裁していない本をペーパーナイフで切りながら読んだ)な本に高値がついたりする世界。はまると奥が深そうだなあ。

マンガでいうと金魚屋古書店の斯波さん(芳崎せいむ『金魚屋古書店』小学館)みたいな栞子さん。だが、本を読むのが苦手という店員、大輔を通して語られるせいか、マニアの深みにはまらず、軽い読後感。いいね。


次は海老名(→次回「ツール・ド・本屋さん5」参照)。このまま北上。
海老名のお店は一度行ったことがあるが、そのときはご挨拶できなかったので、楽しみ。

2011年9月4日日曜日

ツール・ド・本屋さん3・・・・求道者の秘かなる情熱『日本の分水嶺』

ツール・ド・本屋さん3店目は、鎌倉。

横浜みなとみらい地区(→前回「ツール・ド・本屋さん2」参照)から鎌倉街道を南下。大船→北鎌倉と抜けて、鎌倉を目指す。

途中。北鎌倉建長寺前を通過。ここには、ちょっと苦い思い出が・・・・(ここでは語らず)・・・・道尾秀介『月と蟹』(文藝春秋、前回直木賞受賞作)作中に建長寺の裏山が出てくるので、それも思い出しつつ、少し気持ちが揺れる。

が、あまりここは集中。鎌倉へ抜ける道は少なく、狭い。天然の要塞都市、東京・横浜方面から抜ける道が限られているため、北鎌倉から鶴岡八幡宮に抜ける道路はいつも混雑している。路肩は狭く、片方は柵のない側溝。

目的の本屋さんは鎌倉駅前なので、八幡宮の正面ではなく、小町通りを抜けるが、今度は観光客の混雑。竹下通りと変わらん。


【3店舗目:鎌倉:たらば書房】
小町通りの喧噪を抜け、反対側江ノ電の方の駅前すぐ。黄色い日よけの、小さな町の本屋さん。
今回訪問の中ではもっとも小さな店。

前に訪ねた方に「すごい」と聞いていたが、実際、すごい。
有名なところでは、千駄木の往来堂書店さんも、町の本屋さんにして選書とセンスで独自の地位を築いているが、もしかすると、それ以上かも。

人文系、自然科学系の選書がすごい。たとえて言うと、往来堂書店と神保町の東京堂書店の1階人文オススメ本を合わせたような選書。雑誌やコミックスも置いているが、主力は圧倒的に趣味的な本。どうも老夫婦らしいお二人でやっている店のようだけど、かなり趣味的で深い。さらっと、チョムスキー『生成文法の企て』とかが平台に置いてある。
鎌倉の本屋さんということで、鎌倉にちなんだ本を買ってすぐに移動だなと思っていたが、甘かった。言語学、人類学、地理学、哲学・・・・ツボにはまる本も多い。じっくりと棚を見ていく。


【購入した本】

ある著者の本が目にとまった。
堀公俊『日本の分水嶺』(ヤマケイ文庫)。

堀公俊さんといえば、ファシリテーション(会議の活性化促進)や企業の意志決定に関わる本を多数出版するその道の専門家。『ワクワク会議』(日本経済新聞出版社、名著です)などは愛読書。で、ヤマケイ文庫???

[堀公俊『日本の分水嶺』(ヤマケイ文庫)]

著者略歴を見ると同一人物らしい。
で、買ってみた。

趣味で分水嶺*ハンター(分水嶺を訪ね歩く人)をやっているらしい。で、日本列島の背骨にあたる分水嶺をひたすら漏れなく、重複なく(=MECEに)語っていく本(この辺が本業の技を思わせる)。
地形、文化、歴史、アプローチの旅程、名物から観光資源まで、鉄道や道路、行政区画と違って、明示的には引かれていない線を、ひたすら南下していく。ところによっては、地形がゆるやかで分水嶺がわかりにくい場所も、人工的に整備された結果、水路が立体交差しているところ、カルスト地形などで地下水路の場合もあって、分水嶺を追うだけでも、かなりスリリング。

* 分水嶺:厳密な定義は難しいが、ざっくりいうと、その線を境に、降った雨が川となって日本海に流れ下るか、太平洋に流れ下るかで区分した場合の境目。

長編旅行ミステリーを読むように読んだ。
スリリングで面白い。

さあ、次は藤沢。
国道134号線を走り、藤沢に抜けよう。

稲村ヶ崎から江ノ島をかすめて、サザンの『希望の轍』のように。
河合克敏『とめはねっ!』(小学館)の舞台だ。

次回へ続く(→次回「ツール・ド・本屋さん4」参照)


【追記】2011/9/5
台風12号による豪雨被害がありました。ちょうどこの『日本の分水嶺』を読んだ後だったので、それぞれの地形、地名がよりいっそう心に刻まれます。行方不明の方々、道路が寸断されて閉じ込められている方々、これから被害が予想される東北・北海道の方々、ご無事を。

2011年9月3日土曜日

ツール・ド・本屋さん2・・・・空想とリアルの揺らぎ『現実入門』

ツール・ド・本屋さん2店舗目は、横浜みなとみらい。
1店目の鶴見(→前回「ツール・ド・本屋さん1」参照)からは、国道15号をひたすら南下、横浜を過ぎ、海側に道なりに行くと、高層ビル立ち並ぶみなとみらい地区が見えてくる。

ランドマークタワーやパンパシフィックホテル、昔、横浜トリエンナーレで巨大なバッタがたかっていた(確か2000年)船の帆のようなグランド・インターコンチネンタル・ホテル、巨大な観覧車が一望できる桜木町駅前。


【2店舗目:紀伊國屋書店 横浜みなとみらい店】
駅前にできた新しいショッピング、コレットマーレみなとみらいに2010年3月開業とのこと、まだ新しい本屋さん。

内装もおしゃれで、本屋さんっぽくない。強いていうと、TSUTAYA六本木店や、業種違うけど銀座のハンズみたい。

夏休みの最終週ということで、家族連れが多い印象。品揃えも、絵本や児童書、宿題、行楽、ファミリー層を意識した、あんまりとんがってない感じ。が、さすがは紀伊國屋、バランスが取れた選書。
横浜ローカル本もけっこう充実。


【購入した本】
で、何を買おうかと物色していたら、「紀選文庫 紀伊國屋書店スタッフが選んだ文庫百冊」というコーナーが目に入る。

そこで、穂村弘『現実入門』を発見。

  [穂村弘『現実入門』(光文社文庫)]

『ほんとうは違うんだ日記』や『短歌の友人』、『絶叫委員会』、編著の『短歌ください』など、現実とのギャップをとことん突き詰める穂村ワールドに絡め取られている私としては、これは見逃せない。

で、買ってみた。

体験するのは、ごくごく普通のこと。穂村さんが語ると、現実と穂村さんの認識とのギャップが面白い。

ところが、おどろくべきことに、穂村さんが未体験なことは、わりと自分自身と重複していることに気付く。最初のテーマは「献血」だが、20歳の頃に1回したが、その後、2回目はつい最近・・・・。「相撲観戦」も「占い」(1回くらいあるかも)も「競馬」も・・・・私も、穂村さんと編集者のサクマさんが言う「現実」から遠いような気がする。

みなとみらいという未来都市で、穂村さんの妄想や葛藤と現実の間に生じる陽炎のような揺らぎを自覚させられる。

穂村ファンとしては、うれしいような、微妙なような・・・・。
でも、このギャップに自覚的でありつづけることが、穂村さんの文章を、短歌を生むのだなと思う。

・・・・と、これだけだと、普通の穂村本、この本にはもう一つしかけが。
ネタバレになるので秘密。ぜひぜひ、最初から最後まで、順番通りに読んでください。

この本も何度も読み返す大切な本の一冊になった。


次は鎌倉を目指す(→次回「ツール・ド・本屋さん3」参照)。
大船経由、鎌倉街道を南下。浪人生のころ、最初に来たツーリングが鎌倉だった。
回りを山に囲まれ、坂道がきつかった思い出が、ちと気合いを入れて出発。

2011年9月2日金曜日

ツール・ド・本屋さん1・・・・鶴見の船長オススメの『ボーナス・トラック』

先日8/30の自転車の小旅行、ツール・ド・本屋さん(→前回「ツール・ド・本屋さん」参照)、10店舗回る予定を雨天のため7店舗しか回れませんでしたが、非常に濃い旅でした。

夏休み中なので、ちょっとずつご報告していきます。

ルールのおさらい
  • 訪れた町で、1店舗、事前に選んだ本屋さんに寄る。
  • 同じ系列店はかぶらないようにする。
  • その店のオススメ本を1冊買う。(重量の関係で、文庫、新書、コミックスに限定)

予定のコース
  1. 鶴見:bookport203 鶴見店
  2. 桜木町:紀伊國屋 横浜みなとみらい店
  3. 鎌倉:たらば書房
  4. 藤沢:有隣堂 藤沢店
  5. 海老名:三省堂 海老名店
  6. 多摩センター:啓文堂 多摩センター店
  7. 立川:オリオンパピルス*
  8. 吉祥寺:BOOKSルーエ*
  9. 阿佐ヶ谷:書原 阿佐ヶ谷本店*
  10. 渋谷:SHIBUYA TSUTAYA
* 結局、雨がひどくなり、7~9 は今回はあきらめた。


旅の模様は、ツイッターで #ツールド本屋さん で実況報告していたので(もしくはtwilogで8/30~31あたりを見てね)、買った本と本屋さんのご紹介など、読後感も合わせてご報告。

自宅を出て、国道15号を快調に南下。晴れていい天気。ちょっと蒸し暑い。


【1店舗目:鶴見:ブックポート203 鶴見店】
店舗サイト:http://www.inoue-kouzai.co.jp/book.html
公式ツイッター:@bookport

国道15号沿い、東京からは、鶴見橋を渡ったすぐのところ。帆船を思わせる白い外装。上記サイトが井上鋼材となっているように、いわゆる異業種参入店舗ではあるが、長く地元に根付いたお店。系列の栗平店にもうかがったことがあるが、敷居が高くない町の本屋さんでありながら、オススメ本がはっきりした、意志を感じるお店。国道15号を巡航する自転車星人には、格好の港。

POPにも工夫があって、コーナー分け、作家別陳列がわかりやすいサイン、オススメやフェアに意志を感じる陳列、POPも版元支給のものと手描きをうまく活用しながら、探しやすさとオススメをうまく伝えている。

本を愛する熱血店長さんとは、以前からツイッターなどで知っており、以前お店にもうかがったことがある、2度目の訪問。

入るとすぐ、オススメ本コーナー。店長一押しの『ジェノサイド』の大量陳列。以前、新聞の書評で、神奈川の書店員さんなどのツイートで人気に火がついたとの紹介があったが、そのしかけ店舗のひとつ。(でも、単行本だし、重量を考えて断念)


【購入した本】
で、熱血店長さんにオススメを聞いてみた。と、案内してくれたのが、「店長の勝手にオススメコーナー」。棚ひとつ分、一冊ずつ熱く語れる本をセレクトしている。
読書傾向についてひとしきりヒアリングしたあと、薦めてくれたのが、『ボーナス・トラック』。

[越谷オサム『ボーナス・トラック』(創元推理文庫)]

幽霊と会社員が・・・というあらすじ紹介は無粋なのでやめておくけど、そうだなあ、森絵都『カラフル』と、藤田和日郎『うしおととら』、映画の『TAXI』みたいなストーリー(わけわからん紹介でもうしわけない)・・・衝撃で重苦しいオープニングから、ちょっと拍子抜けするほどの軽さ、ファンタジックでちょっとだけ手に汗握って、あたたかい読後感、素敵なお話です。

ファンタジーノベル大賞受賞作、で、デビュー作。デビュー作にしてこの構成力、読ませる力。ファンタジーかつミステリーで、ちょっとだけサスペンスな、すこし不思議(Sukoshi Fushigi)な物語。

面白い。
ちなみに、作者、越谷オサムさんは、越谷在住(この作家さんは、また後で登場します→「ツール・ド・本屋さん6」参照)。ペンネームもそこからかな。舞台は地元っぽい感じ(以前、隣町に住んでいたので)。

店長、オススメありがとうございました。
ラムネ、ごちそうさま。ジリジリと暑くなってくる中、懐かしい甘さが沁みました。

自転車で1時間弱なので、休みの日にはときどき行けるかな。
またお邪魔しますね。

次は、横浜、紀伊國屋書店 横浜みなとみらい店(→続きは「ツール・ド・本屋さん2」参照)